がん患者の終末医療の世界では、人生の最後の時をどのように過ごすかというのは、重要な位置を占めています。もはや医療だけで語ることはできません。患者の苦しみを和らげたり、穏やかな時を過ごせるよう配慮するという脇役の一人という位置づけになるからです。本人の希望や想いに最大限の配慮を施しながら、患者に残された時間をできる限り満足して過ごせることを重視すべきでしょう。それが、患者の望む生き方だといえます。往々にして、医学的見地から患者の人生満足度を判断しがちだと指摘されています。医療側から見ると必要な処置も、もしかしたら患者が望む幸福から遠ざかる可能性もあります。むしろ、患者から医療を遠ざけることが生きることにとっていいケースがあるかもしれません。あるいは、ベストな治療方法ではなくても事前の処置の方が患者にとって望ましいこともあるでしょう。これは終末医療に限らず、すべての医療行為に共通した医学のジレンマかもしれません。生きる質という概念が日本の医療界になかった時代には、医師の判断で治療行為が決められるのが常識でした。患者にとって最もいいと医師が判断すれば、それがベストだと誰もが従ったはずです。しかし、患者にとっての幸せを基準に置いたとき、その医師の判断が必ずしも正しいといえない時代になっています。医師と患者の双方が考える本当の幸せな生き方が完全に一致する治療方法が一つでも増えていくことが医療の世界に求められています。